IPM導入事例

1.コマツナハウス栽培における事例

コマツナハウス栽培IPMを図1に示した。コマツナは播種から収穫まで期間が比較的短いため、病害虫防除の重要度は季節により大きく変化する。ここでは病害虫の発生が問題となる春から夏の作型における事例を示した。江戸川区で用いた手法は網掛けで示した。UVカットフィルム、太陽熱処理、防虫網等の物理的防除法と耕種的防除法を予防措置としてあらかじめ組み入れた。病害虫の監視は黄色粘着トラップによる主要害虫誘殺数の推移と定期的な被害調査により行い、その結果に基づく新たな防除には化学合成殺虫剤および生物農薬(BT剤)を用いた。小規模のハウスでは太陽熱処理を併用しリセットを行い、農薬は使用しない場合もあった。なお、農業者が一連のIPM手法を習得できるまで、普及センター、病害虫防除所および農業試験場が協力した。

あらかじめに組み入れる予防措置(基本的防除パッケージ)メニュー

  1. 耕種的防除
    1. 適正な肥培管理
    2. 残渣処理の徹底
    3. 圃場および周辺の雑草防除
  2. 物理的防除
    1. 防虫ネット:コナガ、ヨトウガ等の鱗翅目害虫・アザミウマ類・アブラムシ類・ハモグリバエ類等
    2. 太陽熱処理:アザミウマ類・ハモグリバエ類
    3. UV除去フィルム:アザミウマ類・アブラムシ類
    4. 黄色蛍光灯:ハイマダラノメイガ・ヨトウガ、オオタバコガ等のヤガ類
  3. 生物的防除
    1. 抵抗性品種:萎黄病抵抗性品種
    2. 交信攪乱剤(コンフューザーV):コナガ、ヨトウガ、オオタバコガ等の鱗翅目害虫
    3. 天敵昆虫製剤:アザミウマ類・ハモグリバエ類・ハダニ類
  4. 化学的防除法
    1. 他の防除法と矛盾しない化学合成農薬の選択

防除要否と防除時期の判断

  • 病害虫の監視に基づく被害状況把握
  • 病害虫防除所で発表する予察情報

病害虫の監視方法(見張る技術)メニュー

  1. フェロモントラップ:コナガ・ハスモンヨトウ等
  2. 色彩粘着トラップ:アザミウマ類・アブラムシ類・ハモグリバエ類等
  3. 定期的な被害調査

新たな防除手段メニュー

  1. 生物農薬
    • BT剤(コナガ、ヨトウガ等の鱗翅目害虫)、糸状菌製剤(コナガ)
  2. 化学合成農薬
    • 標的病害虫に最適な農薬を選定
  3. 物理的防除
    • リセットを併用した太陽熱処理

防除が必要と判断

図1 コマツナ ハウス栽培のIPM

コマツナハウス栽培のIPM

2.促成長期間栽培トマトにおけるIPM(害虫)事例

促成長期間栽培トマトにおけるIPM(害虫)の概要を表1に示した。化学的、生物的、物理的および耕種的防除の組み合わせにより害虫を管理した。害虫の監視は黄色粘着リボンの誘殺数の推移および定期的な被害調査で行い、その結果より新たな防除の有無を決定した。
施設内の防除手段として、育苗期間中は殺虫剤、定植からオンシツツヤコバチ剤の設置までは選択制殺虫剤、オンシツツヤコバチ剤設置から加温開始までは同剤による生物的防除、以降収穫終了までは殺虫剤を用いた。施設内への害虫侵入防止とハウス周辺の害虫発生を抑制するため、出入り口への防虫網の設置(物理的防除)と施設周辺の雑草防除(耕種的防除)を徹底した。
育苗は防虫網のあるハウスで行った。育苗中、オンシツツヤコバチ剤に対する影響期間を考慮した殺虫剤散布を行った。定植時に粒剤処理を行い、オンシツツヤコバチ剤の設置までの期間、アザミウマ類、コナジラミ類、オオタバコガ、ハモグリバエ類、ハダニ類を対象にオンシツツヤコバチに対して影響の少ない選択性殺虫剤を散布した。同寄生蜂に対する影響期間はバイオコントロール誌に掲載されている表を参考にした。オンシツツヤコバチ剤は定植後30日目より7日ごとに4回放飼した。設置から再び殺虫剤を散布するまで、オンシツツヤコバチの寄生率を調査した。以前の試験より低温期におけるオンシツツヤコバチの効果は不安定であることが明らかになったため、11月下旬以降、生物的防除から殺虫剤防除に切り替えた。栽培終了時の害虫密度は高まる傾向にあることから、施設を密閉してリセットした後、次の作に向けての準備を行った。なお、雑草防除の重要度と施設内への害虫侵入危険度は季節により異なる。色の濃淡で重要度を提示し、防除作業のメリハリの基準とした。
図2に実際の防除例を示した。殺虫剤の散布回数が少ないにもかかわらず、慣行区に比べ栽培終了時まで天敵利用区の防除効果が高い。

促成長期間栽培トマトにおけるIPM(害虫)

表1 促成長期間栽培トマトにおけるIPM(害虫)

点線は防除手段の切り替え時期を示す
物理的防除・耕種的防除事項内の月の濃淡は防除の重要度を示す

促成長期間栽培トマトにおけるIPM2