事例紹介: 月産業有限会社

月産業有限会社 BCP策定プロジェクトメンバーの方々。自社の新型インフルBCPには大局感が欠けていた。今回のプロジェクトで個々人の考える力も育成。
月産業 ロゴ 月産業有限会社はプラスチックボビンや木製ドラムの製造および販売を主要業務とする老舗企業です。このたび東京都BCP策定支援事業の一環としてBCPの構築に取り組まれました。その経緯について、代表取締役 後藤吉広氏にお話をお伺いしました。
代表取締役後藤 吉広 氏
総務課 課長田中 一綱 氏
<ニュートン・コンサルティングメンバー>
代表取締役社長副島 一也
コンサルタント小山 隆
コンサルタント片岡 万利子

国内シェア70%のボビン製造

-事業内容を教えてください。

当社は、木製ドラムやプラスチックボビンという工業用品を製造・販売しております。顧客は多岐に渡りますが、電線会社が通信ケーブルを巻くのに使用されたり、モーターやリレースイッチに使われる銅線を巻くのに使用されています。また、当社ではボビンのリユースもおこなっており、回収・再販の制度を整えています。このマーケットでは30年以上前から70%のシェアを持っていますが、昨今は海外企業との競争が激しくなっていることもあり、企業力を高めていくことが重要だと感じています。

新型インフルBCPは社内で策定したが

-今回BCP構築に取り組まれた理由を教えてください。

月産業有限会社 代表取締役 後藤 吉広 氏
月産業有限会社
代表取締役 後藤 吉広 氏

当社はお陰様で高い市場シェアを持っているのですが、逆にそれは取引先に対しての責任も重大だということになります。当社の商品供給がストップしてしまうと、直接の取引先だけでなく、その先のエンドユーザー(自動車、家電、重電、電力など)の事業もストップしてしまいます。当社は、何かあった時でもできるだけ早く復旧できる仕組みを常時考えてなくてはいけないという意識、社会的な責任の重さを感じています。

なので、事業継続計画は5~6年前から作らなくてはならないという意識がありました。ただ、なかなか取り組む時間が取れなかったのですが、一昨年新型インフルエンザが流行した際に、新型インフルエンザ用BCPを自社内で策定しました。その際は、約2ヶ月をかけて全社BCPを策定しました。

ただ、その時は最終的な文書化をすべて私がおこなってしまったことで、社内の共有が十分ではなかった、という反省があります。なので、今回は社員にも自分のこととして取り組んでもらいたい、という期待がありました。

製造ラインを止めないBCP

-策定されたBCPの内容を教えてください。

当社はパンデミックに対するBCPを構築しました。そこで主眼に置いたのは、少なくなった人員でも取引先への商品供給を継続する製造ラインの維持です。

まずは、感染、その後の感染拡大を防ぐために、社員1人1人の感染予防、工場全体での感染拡大予防策を講じることにしました。仕入先など外部からのお客様に対する対応等も含め、感染レベルに応じた具体的な対策を策定しました。また、事業継続策としては、最も重要な製造ラインに他部署からの代替要員を集中させて稼働レベルを確保することにしました。そのために、能力を考慮した人員の配置、工場全体の体制などといった具体的な内容を検討して決定してきました。

最後に、この体制が本当に作れるかどうかも含め、演習により検証をしました。より具体的な被災シナリオを設定し、状況をイメージしやすくすることで、想定外の状況についてもメンバー各々が相談をしつつ各自で判断をして対応を決定していく、この一連の動作がスムーズにできました。BCP策定を通じてプロジェクトメンバーの意識が高くなってきていると感じました。

対象事業プラスチックボビンの製造・販売
対象リスクパンデミック
被災シナリオ新型インフルエンザが日本国内で発生。瞬く間に全国で感染者が急増。月産業内でも感染が広まり、生産管理課6名、製造課6名、総務課2名が感染した。
事業継続策製造ラインの稼働率を50%で2日間維持、3日目には80%に引き上げるために、他部署からの代替要員によって必要人員を確保する
原材料の在庫調整を行う

-自社で策定されたBCPとはどのように変わりましたか?

一昨年社内で作ったBCPは、将棋で言えば、「一手一手の指し手」の集合体でした。事業を止めない、という大きな目標に即して作成はしているのですが、足りない部分が多々あったと感じています。それに対して今回策定したBCPは「大局感」を具現化したものになりました。やはり、自分たちだけでは持てなかった視点、他企業での取り組みの様子など、自分たちでは知り得なかった情報を得られたことが大きかったと思います。

-プロジェクトの目標は社員教育の要素もあったとお聞きしました。

月産業有限会社 代表取締役 後藤 吉広 氏

社員には内緒でしたが(笑)、実は今回のプロジェクトに申込みをした目的の50%は、社員の研修という意味合いを込めていました。普段の業務や今起きていることに関しては社員も常々話しあいますが、未来に“起こるかもしれない”ことについて話し合う機会はまずないです。何か起こった時に、工場全体としてあるべき姿や助け合いの方法について全員で共有する場はありませんでした。

そこで、私が会社の問題点やその解決策を考えて社員に押し付けることは勿論できますし、むしろそちらの方が楽なのですが、それでは、緊急事態の際に対応できる力は結局身につかない。今回のプロジェクトでは、私はグッと我慢して、会社の主要なメンバーでもあるプロジェクトメンバーひとりひとりの考える力を引き出すことに注力しました。

会社に必要だった「新鮮な風」

-ニュートンのコンサルティングはいかがでしたか?

先ほども述べたように、当社の社内の人間では立てなかった視点に立って、様々な投げかけやアドバイスをいただけたと思います。そうした普段はされない質問に促されて、プロジェクトメンバー各人が一生懸命考えることができたことは、大きな成果だったと思っています。

ISO審査なども同様だと思っているのですが、社外の方に普段の業務を見ていただく機会というのは、非常に有意義です。自分たちだけでは決して気が付かないことを指摘していただくなど、「新鮮な風」を吹き込んでくださいます。私は常々、そういう刺激は企業にとって重要だと感じています。

是非とも取り組んで欲しいBCP

-取り組みを検討中の企業へメッセージをお願いします。

企業の経営者でBCPが必要ないと思っている会社はまずないと思います。企業の存続のためにはもちろん利益が必要ですが、お客様の信用に答えること、働いている人たちの生活を守ることなども企業の使命です。

ただ、残念ながら現在当社のような中小企業はなかなかこうした取り組みにお金をさく余裕がないとも思います。ですから、こうした行政による支援などは積極的に活用していかれるべきだと思います。また、行政の方々もこうした前向きな支援は継続しておこなっていただけることを期待します。

-今日は貴重なお話をありがとうございました。


企業情報
称号: 月産業有限会社
本社所在地: 東京都世田谷区若林2-19-6
設立: 1955年2月
資本金: 3,000万円
従業員数: 94人
代表者: 代表取締役  後藤 吉広
事業内容: プラスチックボビンや木製ドラムの製造販売、回収および加工
URL: http://www.tsuki3gyo.co.jp/

(2010年9月末日現在)

担当者の声 静かな熱意が支えるプロジェクト

今回私共は長野県野方にある月産業様のプラスチックボビン製造工場にお伺いし、BCP策定のお手伝いをさせて頂いたのですが、まず現場で感じたことは、お一人お一人が消費者には直接見えないけれども大きな供給責任を担っているという自負をお持ちということでした。

それは特許を取得している高い技術力や短納期の実現、ボビンの『リユース・リサイクル』の仕組みをいち早く構築・運用するという先見性・独自性を武器に獲得された地位だということも分かりました。

そのため今回のBCPの目標も『何としても事業を止めない』という、傍目に見ると完璧を求めた厳しいものになっているのですが、その目標を実現するために必要なこと、自社で実施可能なことをひとつひとつ検討し、積み上げていく。そしてその高い目標を実践するためには黙って努力を惜しまないという、後藤社長様をはじめプロジェクトメンバーの方々の静かな熱意と姿勢に大変感銘を受け、そのお手伝いができたことをとても誇りに思っております。